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6.原子力資源への幻想

「原子力は準国産エネルギー」という詭弁

6−1図 日本の一次エネルギー供給構成 『図面集2001』から引用

 この図は経済産業省資源エネルギー庁作成の『総合エネルギー統計』から『図面集2001』に引用したものです。原子力発電施設は確かに国産ですが、そのことによって原子力資源が国産とはなりません。このように原子力を「国産」と表示した資料を見ると国内の鉱山からのウラニウムで原子力発電が行われているように受け取ってしまいます。実際にはウラニウムは殆ど全部輸入に頼っています。天然ウラニウムを輸入して国内で濃縮しても原子力資源としては国産になりません。その濃縮さえも国内では原発数台分だけで、大部分はアメリカ、フランス、イギリスに依頼しています。この実態は決して「国産」ではありません。図の中の(注)で「原子力はその特性上準国産エネルギーとして扱われる」という小さな字の断り書きがあります。この資料を作った経済産業省は原子力発電のどんな特性を根拠に原子力資源を「準国産」と扱うのでしょうか。

 経済産業省資源エネルギー庁発行の『エネルギー白書2010』に「原子力の燃料となるウランは、エネルギー密度が高く備蓄が容易であること、使用済燃料を再処理することで資源燃料として再利用できること等から、資源依存度が低い「準国産エネルギー」と位置づけられています。」という記述が、同じ資源エネルギー庁発行の『日本のエネルギー2010』には「原子力の燃料となるウランは、一度輸入すると長期間使うことができることから、原子力を準国産エネルギーと考えることができます。」という驚くべき記述があります。後者の説明は前者の2つの理由の1つ目を具体的に表現したものと解釈できます。備蓄が可能でまとめて輸入すれば国産に準じるというなら程度の差はあれ、他の輸入エネルギー資源も全て「準国産」になります。前者の2つ目の理由とされている再処理によるプルトニウム抽出はフランスとイギリスに依頼した物が大部分で国内処理はほんの一部分に過ぎないので国産ではありません。またプルトニウム燃料(MOX)は使用済み燃料の8分の1しか貯めこむことができません。貯めこんだプルトニウム使って全ての原発がプルサーマルを実施しても、4台の改良沸騰水型軽水炉以外はプルトニウム燃料は3分の1しか原子炉に装荷できませんので、プルトニウム燃料の2倍のウラニウム燃料が使われます。原子力資源が国産であるという主張は高速増殖炉が実用段階に入り軽水炉の大部分に取って代わった後(厳密にはウラニウムを輸入しなくなった後)に初めてできる主張です。唯一の高速増殖炉もんじゅはトラブル続きで、瀕死の状態です。福島第一原発の事故以来原発の虚構が暴かれてきているにも関わらず、国産でない原子力資源を国産扱いする恥知らずの行為は資源エネルギー庁の間違いでは済みません。同じ記述が繰り返されている『エネルギー白書2011』が2011年10月28日閣議決定されました。日本の政治の中枢部も詭弁に手を貸していることを見ると、呆れるだけでなく、恥ずかしくなります。なお、最新の『図面集』ではこの図は削除されています。しかし資源エネルギー庁の「エネルギー白書2013」では上記理由に「発電コストに占める燃料費の割合が小さいこと」も加えて「準国産」と言い続けています。

 2014年4月11日に閣議決定された「エネルギー基本計画」の21ページに「燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産エネルギー源として、…」という記述があります。これは燃料投入量に対するエネルギー出力が大きければ国産エネルギー、少なければ輸入エネルギーという誰にでも見抜ける詭弁です。このような稚拙な論理が国の中枢でまかり通っていることを日本人として恥ずかしく思います。

 資源エネルギー庁のページでは、「各国のエネルギー自給率(原子力含む場合)の推移」と題するグラフで、原発の停止によってエネルギー自給率が20%から4%に下がったように表示していますが、実際には輸入燃料を使わなくなるので、原発停止でエネルギー自給率は少しだけ向上しているはずです。また(原子力含む場合)を表示して(原子力含まない場合)を意図的に表示から除外しています。これは「場合」と仮定らしく見せておいて確定的な主張をする、卑劣な手法です。見え透いた詭弁を弄して「エネルギー自給率を上げるための原発再稼動」と思わせようとしていますが、輸入資源を使って再稼動すれば電力自給率が下がることは小学生でも分かります。このような稚拙な論理の本音が「在庫が残っている燃料の有効利用のための再稼動」であることを見抜く必要があります。

 福島の大惨事にも関わらず、「日本はエネルギー資源が乏しいので原子力発電に依存することは止むを得ない」という意見が根強くありますが、この意見は「原子力資源は国産」という政府の詭弁の影響を受けたものと思われます。海水からのウラニウム採取、高速増殖炉や核融合発電のどれか1つがすでに実用化しているように扱う政府の詭弁は原子力発電の「安全神話」と並んで非常に悪質です。横道にそれるかも知れませんが、この3つのどれも未完成であることを確認しておきましょう。


海水からウラニウムが採れるが原子力資源には役立たない

捕集材充填容器
(吸着床)
採れたウラニウム
(イエローケーキ)
6−2図 海水からウラニウム 日本原子力研究開発機構
高崎量子応用研究所HPから引用

 海水には僅かですがウラニウムが溶けています。海水の量は膨大ですから海水に含まれているウラニウムは鉱山ウラニウムの1000倍になると言われています。海水からのウラニウム採取が実用化すればまさしく国産エネルギーになるでしょう。このことから原子力資源に幻想を持っている人が確かにいます。しかし原子力発電を推進してきた電気事業連合会の資料では海水からのウラニウム資源採取についての説明がありません。将来性について、どうして宣伝されないのでしょうか。

 日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所で30年前から研究が進められています。写真は海に沈めた捕集装置と採れたウラニウムです。確かに海水からウラニウムが採取できますが、実用化されていません。報告では海水中に養殖棚のようにウラニウム吸着床を配置した場合のウラニウム採取の経費見積もりとして1kgあたり約8万円となっています。大型化などの工夫をすれば2万円まで下げられそうですが、鉱山からのウラニウムは1kgあたり2000円ぐらいですから実用化の予定はありません。このウラニウム収集装置は広い海面を必要としますが、同じ海面に洋上風力発電や太陽光発電を設置する方が発電経費で有利であると思われます。海水中のウラニウムの利用は原理的に可能ですが採算が採れなければ実用化しません。


高速増殖炉でウラニウム資源を100倍も有効利用できるが、もんじゅは廃炉に

6−3図 MOX燃料の構成 右側の2つがMOX燃料を示します。『図面集2011』から引用

 軽水炉でMOX燃料を使用するプルサーマルは高速増殖炉が機能しないために急遽登場したプルトニウム利用法ですが、8本の使用済み燃料棒から1本しかMOX燃料を生産できません。さらMOX燃料は全核燃料の3〜4分の1しか装荷できません。プルサーマル運転をしてもプルトニウムの「資源量」はごく僅かです。本命の高速増殖炉でなければプルトニウムの本格的利用はできません。問題の多い再処理工場はプルサーマルのためではなく高速増殖炉のために建設されたはずです。

6−4図 高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏えい事故 『図面集2011』から引用

 軽水炉では殆ど燃えないウラニウム238から高速増殖炉で生成されるプルトニウムは燃料として消費されるプルトニウム239の1.2倍となり、プルトニウムが増殖します。ここの部分だけをとらえてプルトニウムを際限なく生産できる「夢のエネルギー」と宣伝されたり、そのように誤解している人がいます。プルトニウムを生成する元の材料がウラニウム238であることを忘れた期待です。天然ウラニウムの大部分を占めるウラニウム238も利用できれば、軽水炉と比べてウラニウム資源を約100倍も活用できるはずです。無制限ではなく100倍までです。また冷却材として危険な金属ナトリウムを使うという技術的困難が大きな障害になっています。小型高速増殖炉「フェニックス」で成功して世界をリードしていたフランスでは大型高速増殖炉「スーパーフェニックス」で故障を起こし開発が停滞し、休止していた「フェニックス」を再稼動させました。小型炉でうまくいっても大型化すると新たな困難があるという教訓を得たようです。エネルギー資源に恵まれない日本では小型高速増殖炉「常陽」の成功から、フランスの教訓を無視して、大型の高速増殖炉「もんじゅ」を推進してきました。1995年にナトリウム洩れによる火災を起こし開発が中断しました。14年の空白の後に2010年に再運転しましたが、炉心に中継棚を落としてしまい、その後も運転できていません。建設に1.08兆円を費やし、停止期間も1日4000万円もの維持費を無駄遣いしています。

 高速増殖炉計画は1967年以後、原子力委員会が策定してきました。それ以後5年ごとの改定では、上のリストのように5年経過するごとに「実用化」の見通しが5年近づくのではなく5年遠ざかっています(『核=原子力のこれから』から作成)。これでは永遠に実用化しません。原子力委員会は何の展望もなく「実用化」を言い続けて国民を欺いて1兆円以上の無駄使いをしてきたことが分かります。最後には「技術開発の目処」も無いまま「第1基」という無責任さです。

 その後は2014年4月11日に閣議決定された「エネルギー基本計画」でも時期については沈黙を続けています。政府(閣議)と資源エネルギー庁は「原子力は準国産エネルギー」という詭弁を「2050年以後」まで慎むべきです。2015年、原子力規制委員会は日本原子力研究開発機構がもんじゅの運営主体として不適格であるというレッドカードを出すに至りました。2016年12月、原子力関係閣僚会議が「もんじゅの廃炉」を決めましたが、新たな高速炉推進にしがみついていることを見抜いておく必要があります。開発の第2段階(原型炉)失敗を顧みず第3段階(実証炉)に進むとする無責任な計画です。

 高速増殖炉では、ウラニウム238が無くなるまで、生成されたプルトニウムを燃焼させるのではなく、頻繁に(もんじゅでは6ヶ月毎に)燃料棒を交換し、取り出した燃料棒からウラニウムとプルトニウムを回収します。そのために再処理施設の存在が必須となります。原子力発電に対応する再処理を行うのはイギリス、フランスと日本だけです。しかし六ヶ所村の再処理工場は1993年の着工以来、事故続きで竣工時期を21回も延期し、まだ完成していません。当初予算の3倍もの費用を使ってもなお殆ど機能していません。また燃料集合体の外側部分(ブランケット)においた使用済み燃料を再処理(化学分離)して得られるプルトニウムはプルトニウム239の純度が高いためにそのままで核兵器に転用できます。日本が高速増殖炉と再処理にこだわる理由として核兵器開発を意図していると疑われても仕方がありません。国産でもない原子力資源を国産資源であるとする出来損ないの詭弁は、核兵器準備の布石の1つになっています。

核融合原子炉が実現しても国産資源でないばかりか、発電に利用されるとは限らない

 ウラニウム資源がなくなる前に核融合原子力発電が実現することを期待している人がいますが、現有の核分裂原子力発電技術の延長上に核融合原子力発電技術が位置づけられるのではありません。核融合原子炉は現有の核分裂原子炉とは全く別の技術であり、現有原子力発電設備で核融合反応ができるのではありません。「原子力発電」という名称が共通であるだけです。核融合発電の資源を国産できる可能性はありますが、それによって現有核分裂原子力発電の資源までが国産になる訳ではありません。

6−5図 核融合と核分裂の原理  『図面集2001』から引用

 核融合発電や核融合爆弾の核融合反応は太陽で起こっている核融合反応と同じではありません。軽い普通の水素(軽水素)原子核以外の全ての原子核はその構成粒子として必ず中性子を含みます。太陽では4個の軽水素からヘリウム4を生成します。ヘリウム4の原子核はは陽子2個と中性子2個からなります。そのために「弱い相互作用」を2回経由して陽子2個が中性子2個に変わらなければなりません。弱い相互作用は非常に遅いため、太陽中心の1500万度の環境でも100億年も水素が燃え続けられます。水素爆弾と同じ反応を起こせば太陽は吹き飛んでしまいます。太陽中心部で起こっている反応は下の式で表されます。ここで 1H は普通の軽い水素、2H は重水素、e+ は陽電子、νe は電子ニュートリノ、3He はヘリウム3、4He はヘリウム4、 1 MeV は 1.6 x 10-13 ジュールです。

1H + 1H → 2H + e+ + νe + 1.44 MeV
2H + 1H → 3He + 5.49 MeV
3He + 3He → 4He + 21H + 12.86 MeV
-----------------------------------
41H → 4He + 2e+ + 2νe + 24.72 MeV

 水素爆弾や核融合原子炉では弱い相互作用を含まない(陽子数や中性子数が変化しない)核反応を使います。そのために中性子を含む水素である重水素や3重水素を燃料にします。正の電荷を持った原子核どうしを接触させるので、重水素と3重水素の核融合には1億度の、重水素どうしの核融合には10億度の、高温が必要です。核融合原子炉では出てくる中性子が周辺の物質を放射性物質に変換することも問題ですので、中性子を出さない核融合反応も検討されていますが、さらに高温が必要なので先の課題になります。下の式で 3H は3重水素、n は中性子です。

2H + 2H → 3H + 1H + 4.04 MeV
2H + 2H → 3He + n + 3.27 MeV
3H + 2H → 4He + n + 17.6 MeV

 核融合爆弾や核融合原子炉に使う重水素は水の中に1万分の1だけ含まれていますが、海水の量が膨大なので採れる重水素の量も膨大になります。重水素どうしの核融合原子炉では核燃料や最終的な核反応生成物が放射性物質ではないことが大きな利点になります。図では燃料に3重水素(トリチウム)を含む核融合反応が表示されています。2つの重水素からの核融合反応が最終目標ですが、重水素と3重水素による核融合反応が低い温度で済むので、その実現を当面の目標としています。3重水素は半減期12年程度の放射性同位元素ですので、取り扱いが要注意です。3重水素は海水からは採集できません。核融合原子炉内に置いたリチウムに中性子を照射して3重水素を生産します。下の式で 6Li はリチウム6、7Li はリチウム7です。

6Li + n → 3H + 4He + 4.8 MeV
7Li + n → 3H + 4He + n - 2.5 MeV

 しかし、リチウムの鉱山資源は国産ではなく、輸入品は高価です。ウラニウムと同様に、リチウムも海水から採取できますがもっと高価ですので実行されていません。3重水素と重水素による核融合原子力発電を実現しても、その資源は国産にはなりません。

 核融合発電を目指す道は何通りかあります。「プラズマ閉じ込め法」、「慣性核融合法」、「ミュー粒子触媒法」などがあり、いずれも基礎的研究が進められ、核融合を実現していますが、得られるエネルギー以上の電気エネルギーを消費します。1989年に「常温核融合」を見つけたと騒いだ人たちがいました。常温で核融合反応が起こる確率はゼロではありませんが、一生待っても1つの反応も起こらないでしょう。電圧をかければ核融合が起こりますが、それでは常温でなくなります。常温で核融合発電をすることはあり得ません。私自身は発電目的ではない実験で14万ボルトの電圧をかけた時に重水素どうしの核融合反応を観測したことがあります(ここをクリックして表示される論文のFig. 4にあるD(d,t)HとD(d,p)Tのピーク)が加速器を使った核反応実験で珍しいことではありません。これは15億度に対応するので「常温」でないばかりか、重水素を加速するのに投入した電気エネルギーの方が核反応の発熱エネルギーよりはるかに大量です。

6−6図 国際熱核融合実験炉ITER  ITER機構のホームページ から引用

 核融合発電に向けて最も開発が進んでいるのはトカマク型磁気閉じ込め法です。今進められているITER計画は建設費用が膨大であるために1台作るのに参加7カ国で建設誘致の駆け引きが行われました。図に人の大きさが表示されているのでその巨大さが分かります。投入する電気エネルギーの5倍程度の熱エネルギーを発生させることを目指しています。熱エネルギーで発電してもあまり有用ではありませんので、熱エネルギーは発電に使わず捨ててしまいます。この「実験炉」で見通しを立ててから「デモ炉」を経て「実用炉」進む計画です。同じ発電量で比べると核分裂炉の5倍もの多量の中性子を発生します。この厳しい中性子照射による炉材の劣化と誘導放射能の問題など解決すべき課題が多く、実用化できるかどうかで、専門家の間で意見が分かれています。

6−7図 トカマク型核融合炉の発電と3重水素生成に関係する部分  ここから引用

 この図はブランケットの中を冷却水が循環しで中性子による熱エネルギーを炉の外に取り出して発電する仕組みを示しています。燃料となる3重水素を生産するためのリチウムもブランケットに収納されます。

 重水素だけの核融合原子炉「次世代核融合炉」は資源問題と3重水素の放射能問題を解消するという利点を持ちますが、ITER炉の10倍もの高温が必要なので実現はさらに厳しくなります。中性子による炉材料の劣化と誘導放射能の問題は5倍も厳しくなります。装置の大型化で膨大な費用がかかります。技術的に可能であっても、同じ発電量で比べて風力発電や太陽光発電よりも設備費が安くなければ燃料費が無料の風力発電や太陽光発電に敵いませんので実用炉を建設するとは思えません。風も太陽光も届かない環境で、例えば深海や太陽から遠い惑星で、長期間活動するようなことがない限り、核分裂及び核融合原子力発電の必要性はないと思います。残念ながら戦争目的で敵国から見つけられずに長時間連続潜水するには核分裂の原子力潜水艦が最も有効です。核融合原子力発電は戦争目的にも役立ちません。


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