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2.放射性廃棄物

原子力発電は必ず放射性物質を生成する

 鉄より軽い原子核では核融合によって、重い原子核では核分裂によって発熱します。 その逆向きの核反応は吸熱反応なので、外部からエネルギーを与えなければ、進行しません。 ウラニウム233(半減期16万年)、ウラニウム235(半減期7億年)やプルトニウム239(半減期2万4千年)に中性子を吸収させると核分裂を起こし熱エネルギーを放出するので「核燃料」になります。 しかし天然に存在するのはウラニウム235だけで、ウラニウム233やプルトニウム239はそれぞれトリウム232(半減期140億年)やウラニウム238(半減期45億年)に原子炉中で中性子を吸収させて2回ベータ崩壊させることによって生成します。 核分裂生成核はその安定同位体と比べて中性子が過剰なので不安定(放射性)であり、(遅発)中性子を放出するものもあります。 中性子は核分裂生成核を経由しない直接の(即発)中性子とともに次の核分裂を継続させます。 中性子を吸収して核分裂せずにウラニウムよりも重たい超ウラン元素を生成する場合もあります。 超ウラン元素の中には中性子を吸収させなくても自発的に核分裂する核種もあります。 原子炉を稼動すると必ず核分裂生成物や超ウラン元素などの放射性廃棄物を生成します。これはどうしても避けられません。

2−1図 原子炉運転による燃料1トン分の物質の変化 『図面集2001』から引用

 2−1図は原子炉運転によって核燃料がどのように変化するかを燃料1トンあたりについて説明しています。 発電前の燃料中のウラン235の20キロ、ウラン238の2キロ、途中で生成したプルトニウム239の8キロの合計30キロが核分裂して、それが発電後の「核分裂生成物等」の30キロになります。 核分裂ではなく中性子吸収によって、ウラン238から生成される超ウラン元素は簡単のためにプルトニウムで代表させていますが、プルトニウム239以外の複数のプルトニウム同位元素が含まれ、さらにネプツニウム、アメリシウム、キュリウムのそれぞれ複数の放射性同位元素もあり、プルトニウム239と同様に超長半減期の放射性元素を含みます。 核分裂生成物の半減期は殆どが数十年以下であるのに対して超ウラン元素には半減期が数万年以上のものも含まれます。

 原子力発電で生成される放射性廃棄物が核種固有の半減期で放射線と崩壊熱を発生することを、加速器や原子炉等で核反応を起こすのでなければ、制御できません。原子炉が暴走しても核燃料が飛散してしまうために核兵器のような核爆発を起すことはありませんが、崩壊熱が原因となって水素爆発や水蒸気爆発などによる放射性物質の飛散や炉心溶融などによる漏洩などを起してしまいます。そのために数十年以上の冷却と数万年以上の放射線管理を続けなければなりません。その間、運転中も含めて、放射能汚染事故を絶対に起こさないような厳しい安全性が求められます。

「放射能を閉じ込める5重の壁」は5重に機能するか

2−2図 放射能を閉じ込める5重の壁 『図面集2001』から引用

 これは原子力発電の安全性をアピールするためによく使われてきた図です。 安全対策が5重にもあるかのような誇大表現をしていますが、5重ではありません。 「第1の壁」ペレットは二酸化ウラニウムを焼き固めたセラミックスにすぎません。 クリプトンやキセノンなどの核分裂生成物は簡単に滲み出てきますので燃料を包む壁にはなりません。 冷却水に触れればペレットの他の放射性物質も溶け出します。 ペレットの外側の「第2の壁」被覆管に気密性がありますが、1ミリ程度の薄いジルコニウム合金で出来ていてあまり頑丈ではありません。 高温高圧の過酷な運転条件下に数年間も置かれます。 緊急停止などがあれば温度低下による急激な収縮で痛めつけられます。 定期点検では、放射線量が高いので、目視によるチェックしかしません。 燃料棒集合体の表面部分しか見えないでしょう。 原子炉1台に数万本もの燃料棒が挿入されていますが、この全ての被覆管が健全でなければ放射性物質が冷却水に溶け出します。 この溶け出しは日常的に起こっています。 ナトリウムが水に触れると激しく燃えることは高速増殖炉もんじゅの説明で登場しますが、この被覆管材料のジルコニウムは1500度以上で水と激しく化合します。フクシマでは冷却水供給が停止したために、核燃料の崩壊熱で水温が1500度を超えてジルコニウム燃焼に至り、炉心溶融を促進したと考えられます。ジルコニウム被覆は高温では「第2の壁」ではなく「第2の熱源」になってしまいました。

 「第4の壁」格納容器と「第5の壁」原子炉建屋は点検の時に作業員が立ち入るための出入り口やクレーン等で燃料棒を出し入れするための構造などがあり、気密性は不十分です。 ガンマ線によって空気中の水分から水素ガスを生成するので危険な気体を排出できるようになっています。 そのようなところは「壁」と比べて機械的強度が弱くなっています。 原子炉建屋の壁は1〜2メートルの厚さがありますが、水素爆発や水蒸気爆発を押さえ込むことはできません。 また表題のように「放射能」を閉じ込めるのではなく、ガンマ線や中性子線などの「放射線」を遮蔽するものです。 コンクリートの厚さ1メートル毎にこれらの放射線を1000〜10000分の1に減らします。なお「放射線を閉じ込める壁」としては圧力容器でも厚さ不足で、有効は壁は原子炉建屋しかありません。 格納容器と原子炉建屋が放射能の壁として機能することは期待できません。 加圧水型原子炉では格納容器が原子炉建屋を兼用しているものがあります。 これでも2つと数えることは更に問題です。

 厚いステンレス鋼でできた「第3の壁」圧力容器が最も頑丈です。 これが破られるような重大事態では、他の4つの壁は簡単に突破されます。 圧力容器には冷却水が出入りしたり制御棒を出し入れをする穴があり、パイプ等が繋がっています。 構造が単調でないこれらの場所は機械的強度が弱くなります。 福島第一原発の原子炉では炉心で溶融した燃料によって圧力容器の底の制御棒出し入れ口付近を簡単に破られました。 沸騰水型軽水炉では冷却水の循環パイプが格納容器、原子炉建屋を突き抜けて屋外を通りタービン建屋に導かれる構造になっています。 冷却水パイプ内は圧力容器内と空間的に繋がっていますので、事実上圧力容器の一部です。 タービン本体に送られてくる冷却水蒸気が放射能汚染していることが多いために、タービン建屋の外壁も原子炉建屋のように分厚く作られています。 加圧水型原子炉では格納容器内の熱交換器までの一次冷却水循環範囲までに事実上の圧力容器が限定される点では沸騰水型原子炉より少しましです。 冷却水パイプの直径が圧力容器本体の直径より小さいので同じ圧力に耐える肉厚は圧力容器より薄くなります。しかし原子炉運転によって肉厚が同じ厚さだけ減っていく場合の影響はパイプの方が遥かに深刻です。圧力容器本体がどんなに頑丈であっても冷却水パイプ継ぎ目の溶接強度が放射能漏れの有無を決めてしまいます。福島第一原発の事故でも地震で継ぎ目が破損したと思われます。

2−3図 美浜発電所2号機事故 『図面集2011』から引用

 放射性物質が原子力発電所の外に漏れ出るのに遠回りして「5重の壁」の全てを破る必要はありません。 一番弱いところを通ります。 沸騰水型軽水炉では被覆管と冷却水パイプの「2重の壁」、加圧水型軽水炉では熱交換器を加えた「3重の壁」を破れば十分です。 2−3図に示した美浜発電所2号機事故では格納容器内の蒸気発生装置(熱交換機)が破れただけで発電所外への放射能漏れが起こりました。 図では「周辺環境への影響は認められなかった」と弁解していますが、発電所外で放射性物質が検出されました。 「5重の壁」のどの壁も破ることなく放射性物質が漏れたことは、「5重の壁」が全部機能していなかったことを証明しています。 原子力発電所外まで放射能漏れを起した数多くの事故のうち、全ての壁が破られたのはチェルノブイリ原発と福島第一原発だけです。 「5重の壁」として機能するなら、チェルノブイリとフクシマ以外に放射能漏れは1件も起こっていないはずです。

2−4図 大気中のクリプトン85濃度 http://cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=336 から引用
このグラフの右端の25ピコキュリーは 0.93 ベクレルになります。
財団法人日本分析センターの観測では、2011年までに 1.45 Bq/m3 に増えています。

 2−4図は大気中のクリプトン85の濃度の経年変化を示しています。 クリプトン85は半減期11年で核兵器からも原子力発電からも出てきます。 米ソが競って大気中核実験を始めたころから濃度が上昇し始めました。 1963年に米英ソが部分核実験停止条約により大気中核実験を停止しても濃度上昇が止まりません。 米英ソに続いて核保有国となったフランス、中国は大気中核実験を継続しましたが量的には米ソよりはるかに少ない量です。 それにも関わらず上昇している理由は、原子力発電とそれに伴う再処理が核実験にとって代わって大気中にクリプトン85を放出し続けているからです。 事故がなければ原子力発電所の外にこの放射性物質を排出しないはずです。 ところが現実にはクリプトンやキセノンが原子炉から漏れ出てくるので、漏れた分は濃度を管理しながら(半減期5日のキセノン133の崩壊減衰を見計らって、あるいは希釈して)煙突から大気中に放出しています。 これを禁止したら原子力発電は運転できないでしょう。 基準以下の濃度であれば事故ではないと扱われています。

事故でなくても再処理工程では高濃度の放射性同位元素を施設外に排出する

 核燃料の燃焼で生じた核分裂生成物のうち、クリプトンやキセノンなどは化合物を作ることのない気体元素であり、放射性同位元素、安定同位元素の区別なく、燃料ペレットから染み出てきます。 その全量が被覆管で閉じ込められ、原子炉から取り出されて、使用済み燃料プールで冷却してから再処理施設に搬出されることになっていますが、一部が漏れてしまうことは上で説明しました。 ここでは燃料棒に残っていた大部分の核分裂生成物がどうなるかを見ます。

2−5図 再処理の工程 『図面集2001』から引用

 半減期が短いキセノン133、135やクリプトン88は再処理工場に運ばれるまでに実質的に消滅していますが、クリプトン85はまだ残存しています。 再処理工程を2−5図に示します。この工程で被覆管がせん断・溶解されてしまえば気体のクリプトンを閉じ込められなくなります。 間違って漏れ出たのではなく原子力発電所から運ばれてきた放射性気体の全量を再処理施設は遠慮なく濃度も制御せず施設の外に放出します。クリプトンを冷却液化して分離できますが、液化分離装置が高価なので設置する気がありません。 原子力発電所は放射性物質を放出しないのが建前ですが、再処理施設は建前としても放射性物質を放出します。

2−6図 大気中のクリプトン85の発生源別放出量 グリーンピースの資料から引用

 2−6図は大気中のクリプトン85の発生源別放出量を比較しています。 日本原燃の六ヶ所再処理施設はまだ試験運転ですが、本格運転で目指している「年間管理目標値」を紫色で示しています。 最大処理能力は年間800トンです。電気出力100万キロワットの原発で使う燃料は年間21トン(1−1図)ですから、単純計算では原発38台分のクリプトン85を放出することになります。 それがこれまでの核兵器実験の総量よりも多く、チェルノブイリ原発事故の放出量の10倍であっても不思議ではありません。 この図の右端に示されている(無事故の)原子力発電所と比べれば1万〜10万倍ものクリプトン85をラアーグ(フランス)、セラフィールド(旧名はウィンズケール、イギリス)の再処理工場からも1年間で放出したことが読み取れます。 クリプトン85は半減期11年程度で減衰しますので、過去の核実験やチェルノブイリ事故の影響は薄れつつあります。 それにも関わらず 1.45 Bq/m3 (2−4図の最大値の1.6倍程度)の濃度が続いています。 この主犯は日・仏・英の再処理ということになります。 経費問題で運転開始に至らなかったドイツの再処理施設ではクリプトン除去装置をつけたのに、日本原燃は高価であることを理由に除去装置を付けず、クリプトン85だけでなくトリチウム(半減期12年の3重水素)と炭素14(半減期5730年)も全量放出しています。 日本原燃は「これらの3核種はベータ崩壊が大部分なので体内被曝だけが問題になること、及び生物学的半減期が短いので体内被曝も軽減される」という理由で、放射線数当たりの被曝の被害が少ないと開き直っています。

 どうしてこのような事が横行するのでしょうか。経済産業大臣が原子力発電を含む一般の原子力施設が排出する気体や液体を濃度規制している一方で、再処理施設では適用除外しているからです。理由は一般濃度規制まで薄めるのに必要な空気や水の量が膨大すぎてとても実行できないためです。そのために一般濃度規制枠を無視した高濃度排気排水が頻発しています。政府は日本原燃にクリプトン除去装置を設置させるべきです。クリプトン85で地球上の全生命に危害を加えている日本・フランス・イギリスの独善的で愚かな行為は強く批判されるべきです。最大の原子力大国のアメリカは、直接処分よりも経費がかかるという理由で、原子力発電からの使用済燃料の再処理をしていません。英仏のような核保有国でない日本が全世界に迷惑をかけてまで再処理を強行する理由は核兵器製造準備以外に見つけられません。 現に2012年6月17日に放映されたNHKの「ETV特集」は、サブタイトルが「核燃料サイクルの50年 無限のエネルギーを夢見た2兆円国策の迷走」、「核武装を恐れた米国VS科技庁官僚」、「高速増殖炉もんじゅの誤算」となっていて、日本は再処理計画の初期から核武装を目指していたことが科学技術庁官僚たちの録音で報道されました。 再処理が核武装で重要な役割を果たすことについては「7.原子力発電は核兵器廃絶を妨げている」で詳しく説明します。高価であるという理由で除去装置を付けられないなら、半減期が10年余りのクリプトン85とトリチウムを使用済み燃料のまま数十年間保管して自然減衰を待つべきです。性急に進められている再処理は待てば減衰する放射性物質を待たずに敢えて環境へ放出する愚かな行為です。

 六ヶ所村に建設している再処理工場は何度も完成期日を延期していることで知られています。最近までは2014年10月に完成するとしていましたが、10月30日に2016年3月まで延期すると青森県と六ヶ所村に報告しました。これが21回目の延期です。まもなく2016年3月の期限が切れます。22回目の延期になるのでしょうね。日本原燃には安全に再処理工場を建設する能力が欠けているとしか考えられません。高速増殖炉担当の本原子力研究開発機構に引導を渡した原子力規制委員会は日本原燃にも引導を渡すべきです。再処理と高速増殖炉路線に固執して迷走しているのは世界中で日本だけです。

廃炉決定目前の「もんじゅ」を推進してきた日本原子力研究開発機構が運営する「東海再処理施設」は 廃止が決まった原発の使用済み燃料の再処理するために、六ヶ所再処理工場に先行して1981年から運用されました。1997年にアスファルト固化施設で爆発事故があり、再処理施設そのものの廃止が2014年に決まりました。しかしその廃止作業も難航しています。切り刻まれた燃料被覆管を入れたドラム缶800個が取り出し方法も考えずに作った貯蔵庫プール底に山積みされていたり、中身の分からず分析が必要な廃棄物のガラス製容器4500個が乱雑に山積みされているなど、適正な管理が行われていません。2016年、規制委員会に廃止が完了するまで70年かかるという報告をしています。

 フクシマの事故で安全基準の見直しが行われましたが、規制委員会の審査を通った原発の再稼働が2015年8月から強引に進められています。原発を運転すると必ず発生する使用済み核燃料の処分が停滞しているので各原発サイトで一時待機していますが、その容量が尽きつつあります。再処理の展望もなく原発を再稼働することは非常に無責任です。

非常に危険な耐用年数延長

 原子力発電所を設置した当時に耐用年数は30年程度と考えられ、法定耐用年数(原価償却の年数)を16年としています。日本最初の発電用原子炉である東海第一原発は比較的小規模で経済性がよくないので、予定より3年早く27年で運転を終了し、廃炉作業が行われています。その後の原発は個別に40年まで延長する状態が続いていました。さらに40年を超えた原子炉が出始めたために、再延長も行われています。2012年になって政府は原則40年、特例で60年という方針を打ち出しました。しかし、2012年6月、改組直前の原子力安全保安院は駆け込みで特例の理由もなしに美浜原発2号機の10年延長を認める判断を下しました。安易に延長を繰り返すと、中性子照射による圧力容器の強度劣化によって、再び重大事故が起こる危険があります。

2−7図 脆性遷移温度 『まるで原発などないかのように』から引用
 

 緊急炉心冷却装置を作動して冷却水を注入すると急冷の熱衝撃による応力が圧力容器に発生します。これが「脆性遷移温度」以下で起こると容器が破断する危険があります。圧力容器の脆性遷移温度の変化は圧力容器と同じ材質の監視試験片を圧力容器中に多数置いて点検の時に取り出して測定してきました(図で▲、■で表示)。この「通常照射」のデータを外挿すると60年で危険域に入ります(図で実線で表示)。

 一方、圧力容器壁付近だけでなく炉中心により近いところにも試験片を置いて、圧力容器より10倍も強い中性子を浴びせたとして現実の経過時間よりも10倍も先の経過年数に対する劣化を推定する「加速照射」も行われています(図で△、□で表示)。しかしこの加速照射による予想は現実の「通常照射」との重複部分で通常照射を再現できていません。データ処理上の問題がありますが、データが公開されていません。試験片を圧力容器の10倍も照射していないのではないかと思われます。現実を再現できない理由が不明のままで加速照射の脆性遷移温度(図では点線で表示)を予想するより現実の「通常照射」を外挿して図の実線のように予想する方が正常です。しかし都合のよい加速照射の脆性遷移温度を恣意的に採用して安全判断をして、耐用年数を超えた10年間の延長運転期間に入っています。

 この脆性遷移温度問題で最も危険な状態にあるのは九州電力の玄海原発1号機です。運転開始時の1975年の脆性遷移温度は零下16度。これまで4回取り出した試験片の温度は、35度(76年)、37度(80年)、56度(93年)と推移し、2009年は33年の運転実績だけで98度に大幅上昇しました。 九電は「試験片は圧力容器よりも多く中性子を浴びる場所に置き、数十年後の圧力容器の劣化状況を予測するためのもの。圧力容器の現在の脆性遷移温度の推定は80度」として試験片や検査データを開示することを拒否しています。最後の5年間の上昇は異常で全く予想外です。今後のさらなる異常な上昇を否定できません。


原発閉鎖後も10万年程度の放射性廃棄物の管理が必要

2−8図 高レベル放射性廃棄物の地層処分の概念図 『図面集2011』から引用

 世界中では25万トンもの高レベル廃棄物をガラス固化体にして地下に埋設することが検討されています。日本では10年以上前から処分地を募集しても受け入れの自治体がなく、まだ実行されていません。原子力利用によって増やした(使用済み燃料にある)放射能が(原子力利用しない場合に元々ある)同量の天然ウラニウムの放射能と同程度まで減衰するまで10万年程度の時間がかかります。無責任なことに埋設してそのまま放置する計画です。ガラスは1000年位で結晶化して割れてしまう恐れがありますが、その100倍もの長期的安定性を期待できるのでしょうか。地層埋設の実験的裏づけもなく安全であることを期待するだけでは原発の安全神話と大差がありません。問題が発生しても責任者は遠い過去に他界していて責任をとりません。さらに未来人が誤って掘り出して重大な放射能汚染事故が起こることを確実に止めることは不可能です。映画「10万年後の安全」では再処理なしで埋設を始めたフィンランドのオンカロで、高レベル放射性廃棄物を地中に埋設したということを、10万年後までの人類にどのように伝えていくことができるのか、ということが問題にされていました。

 10万年の間には自然災害があり、文明も変わり、現代と同じ言語が通じる保証はないようです。原子力発電による放射性廃棄物を現代人の子孫が10万年間管理できるとは思えません。未来人に管理を依頼する経費を用意しないでこのような地層処分を実行することは、放射性廃棄物の管理責任を放棄するものです。21世紀人にはこれまで生成した放射性廃棄物を消滅させる義務があります。

既に生成してしまった長寿命放射性廃棄物の半減期を短縮する可能性について

2−9図 高レベル廃棄物の放射性毒性 ここから引用
 

 2−9図は使用済み燃料を再処理してウラニウムとプルトニウムを取り出した残りの高レベル廃棄物に含まれる放射性核種の「毒性」減衰を示します。ここで「毒性」として放射性物質量を年間摂取限度で割った量で定義しています。この図には核分裂生成物(FP)としてストロンチウム(Sr),セシウム(Cs)、テクネシウム(Tc)、ヨウ素(I)が、超ウラン元素(TRU)としてネプツニウム(Np)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)が表示されています。超ウラン元素は核燃料のウラニウムが中性子を吸収することによって生成される、ウラニウムよりも重たい元素です。核分裂生成物の合計が緑の曲線で表示されています。青く太い曲線は超ウラン元素の合計、赤い曲線は両者の合計を示します。再処理でウラニウムとプルトニウムの全ての同位元素を100%除去したと(これは困難)仮定しているようです。ただし図の上でプルトニウム238を除去し忘れています。

 再処理までに使用済み燃料の中の半減期の短い放射性物質は減衰しています。このグラフの時間開始当初(再処理直後)は半減期28年のストロンチウム90(Sr-90)と半減期30年のセシウム137(Cs-137)の核分裂生成物(FP)からの放射線が支配的です。これに対して超ウラン元素(TRU)に属するキュリウム244(Cm-244)やアメリシウム241(Am-241)はそれらよりも少ない量で続きます。除去したはずのプルトニウム239が存在する理由はアメリシウム243のアルファ崩壊(及びベータ崩壊)によって生成されるからです。プルトニウム239以外にも途中から量が増えるものがありますが、それらも似た事情によります。100年以上経過すると、核分裂生成物からの放射能は減衰して、超ウラン元素であるアメリシウム241(Am-241)が支配的になります。数千年後には当初少なかったアメリシウム243(Am-243)が支配的になります。1万年を超えるとプルトニウム239(Pu-239)、10万年を超えるとネプツニウム237(Np-237)が目立ちます。テクネシウム(Tc-99)とヨウ素(I-129)は半減期の長い核分裂生成物ですが初めから少ない量しかありません。

 これまでの原子力発電で大量の高レベル放射性廃棄物を生成してしまった以上、私たちには、子孫に押し付ける危険と管理負担を軽減する義務があります。使用済み燃料から再処理によって回収する超ウラン元素を何らかの方法で半減期の短い元素に変換すると地層処分する廃棄物の体積と放射能半減期を圧縮できます。図の緑色の線は300年で同量の天然ウラニウムの放射能強度まで減衰することを示しています。超ウラン元素を核分裂させる核変換には高速増殖炉、加速器駆動未臨界原子炉、トリウム熔融塩炉等が考えられています。故障で休止中だったフランスの高速増殖炉「スーパーフェニックス」は1994年から4年間、核廃棄物燃焼の実験炉として運転されました。しかし高速増殖炉は軽水炉よりはるかに危険であるばかりでなく軍事利用に結びつきやすいので問題外です。ここではもっと小型で安全性が高いと思われる加速器駆動未臨界原子炉とトリウム熔融塩炉の可能性について検討してみましょう。

2−10図 加速器駆動未臨界原子炉による核変換の概念 ここから引用
この図でMAは超ウラン元素、LLFPは長寿命核分裂生成物を指します。

 研究段階にある「加速器駆動未臨界炉」では加速器ビームによる原子核破砕反応で大量に生成した中性子で超ウラン元素を核分裂させて短寿命核に変換することが可能です。核破砕反応でも新たに比較的短寿命の放射性物質を生成するという問題はあります。軽水型原子炉10台分の超ウラン元素を処理できる能力を目指しています。加速器が止まれば原子炉が自動的に止まるということでの安全性がありますが、原子炉の冷却まで止まるとフクシマの二の舞になります。この加速器駆動未臨界炉はプルサーマルや高速増殖炉との併用を前提にしてプルトニウム以外の超ウラン元素や長寿命核分裂生成物だけの処理をするものと考えられていますが、既存のプルトニウムを含む全ての長寿命核種を消滅するという重い役割を担わせるべきです。

2−11図 トリウム熔融塩原子炉の提案 ここから引用

 「トリウム熔融塩原子炉」は1台だけアメリカで1960年代の4年間無事故で運転されましたがその後の開発は行われませんでした。原子力飛行機が非現実的だったことが原因と考えられます。また、当時新しいウラニウム資源が見つかったためにトリウム利用が当面の課題ではなくなったことも原因とされています。トリウム資源の多いインドでは熔融塩型ではないトリウム原子炉で商業発電を進めています。世界的にはウラニウムの3倍のトリウム資源があります。日本でも第2-11図のような提案をして研究を進めている人はいますが、政府や電力業界に無視されてきました。日本の原子力開発は日米原子力協定に縛られていたためと考えられます。天然に存在するトリウムは半減期140億年のトリウム232だけで、濃縮する必要がありませんが、核分裂性ではありません。トリウム232が中性子を吸収するとトリウム233になります。トリウム233は半減期22分でプロトアクチニウム233にベータ崩壊します。これも半減期27日でウラニウム233にベータ崩壊します。ウラニウム233は半減期16万年でアルファ崩壊します。このウラニウム233が核燃料になります。これはウラニウム238からプルトニウム239が生成されるのと似ています。少量のプルトニウム239のフッ化物をトリウムのフッ化物などに混ぜて熔融した液体を中性子反射材である黒鉛で囲まれた所に流すと臨界に達します。そこでトリウム232からウラニウム233を生産しながらウラニウム233の核分裂を続けるという原理です。この液体は黒鉛の外も(図の薄青色のパイプを通って)循環して熱を熱交換器に伝えます。核分裂生成物の除去や新燃料の供給は運転を止めることなく黒鉛の外側で行うことができます。プルトニウムは初期のウラニウム233の炉内製造まで連鎖反応を継続させるために、点火用として、必要ですが、ここでは核ゴミとしてのプルトニウムを焼却できることに意味があります。また、燃料が液体であるためにメルトダウンなどは起こりません。緊急時には燃料をドレインタンクに退避させれば連鎖反応は止まります。ただしドレインタンクの冷却をしなければフクシマの二の舞になります。液体燃料の沸点が1400度もあり1気圧で運転できるために圧力容器は要らないという利点があります。(熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱効率は熱源が高温であれば高くなります。)超ウラン元素が生成されにくいことから、高レベル放射性廃棄物の長期管理の問題や核兵器製造の問題が避けられるという利点もあります。「原子力平和利用」がウラニウム燃料ではなく、トリウム燃料で推進されていれば、核兵器拡散、放射性廃棄物処理、原子力発電所事故の問題が現状ほど深刻にはならなかったと思われます。検討中の原子炉は将来の大規模な発電を主目的にしているために、プルトニウムを使わずに加速器によるウラニウム233増殖施設との併用を検討しているようですが、ここでは加速器なしでプルトニウムを含む全ての超ウラン元素を焼却するという重い役割を果たすべきです。

 加速器駆動未臨界原子炉もトリウム熔融塩原子炉も研究段階ですが、既に作ってしまった長半減期放射性物質を核変換し短半減期化して廃棄物の管理時間を10万年から数百年に減らす研究を推進すべきです。また既存の原子力発電の使用済み燃料から長半減期物質を分離するためには再処理が必要です。再処理では使用済み燃料のペレット内に閉じ込められていたクリプトン85、炭素14、3重水素の全量を再処理工程で工場外に放出することなく回収するか、100年程度保管してクリプトン85と3重水素が減衰してから処理すべきです。加速器駆動未臨界炉もトリウム熔融塩原子炉も全ての超ウラン元素を処分した後でも、未使用の核燃料を使って発電目的での継続使用が可能ですが、長半減期の放射性物質を処分する核変換のために原子炉という存在理由を見失ってはなりません。放射能汚染からの安全を守る最も確実で最も安価な方法は、放射性物質を作らないことです。

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