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第1章 原子核の基本的性質

原子核の存在

 中心に正の電荷を持ち,質量の大部分を占める原子核があり,そのまわりを負の電荷を持った電子が回っている,という原子の構造はラザフォード・長岡によって提案された。

 その実験的確認は 1909 年,ガイガーとマースデンによって行われた。彼らは210Po からのアルファ線を金の薄膜に当て,その散乱を観測し,後方に散乱されるものもあることを発見した。その角度分布はθを散乱角とすると

P(θ) ∝ 1 / sin4(θ/2)
のようになる。この結果は原子がその大きさ全体にわたって電気的に中性のもの(トムソン模型)では説明できず,原子質量の大部分を占め,正の電荷を集中して持つ核による散乱として説明できる。

原子核の構成

 原子番号Zの元素の原子核にはZ個の陽子が含まれる。その他に陽子と電気的性質だけが異なる中性子も含まれる。中性子の個数をNと表すことが慣例である。大部分の核種で中性子数が陽子数と同じか大きい。陽子と中性子とを区別する必要がないときは「核子」と総称することもある。また核子の数は質量数と呼ばれ,Aで表すことが慣例になっている。化学で扱う「原子量」は質量数に近い実数であるのに対して質量数は整数である。

 質量数の陽子と(A-Z)個の電子で原子核ができていると考えることには次の2つの困難がある。すなわちスピン・統計法則が実験と合わなくなること,電子を原子核の大きさに閉じ込めるには巨大な結合エネルギーが必要であることである。1932年,チャドウィックによって中性子が発見されてこの困難が解決した。

 同じ元素,すなわち同じ陽子数,の核種で中性子数が異なるものがある。これらを「同位元素」と呼ぶ。同位元素には安定なものと不安定なものとがある。前者を「安定同位元素」,後者を「放射性同位元素」(RI, Radio-Isotope)と呼ぶ。

原子核の大きさ

質量数 A の原子核の半径 R は

R = r0・A1/3
で与えられる。ここで
r0 = (1.2〜1.5) fm ( 1 fm は 10-15 m)
は測定方法に依存するが核種に依存しない。


核半径の測定値。この図の直線は r0 = 1.37 fm に対応する。

 原子の半径の場合には表面がはっきりしなくて半径が定義しにくいこと,原子番号によって凸凹に変化することと比べると,極めてはっきりした表面があり,質量数のスムーズな関数であることに気づく。

 また原子核の体積は質量数に比例するので,原子核密度は核種によらず一定であることもわかる。 このことについては課題1を参照。

原子核内で働く力

 原子核内の陽子の間には電気的な反発力(Coulomb力)があるにも関わらず結合しているので,それより強い引力がある。これを「核力」という。また「強い相互作用」とも呼ばれる。核力の及ぶ距離は 2 fm 程度で,この範囲では非常に強く,この外では急激に弱くなる。このような距離依存性は重力や電磁気力の「距離の2乗に反比例」とは大いに異なる。

量子力学の必要性

古典力学が使えるか量子力学を使わなければならないかの判断は,ドブロイ波長が粒子の運動する空間の大きさと比べて無視できるほど小さいかどうかによって行なえる。

 プランク定数を h,粒子の運動量を p,ドブロイ波長をλとすると

λ = h / p
の関係がある。

 原子の場合は軌道電子のドブロイ波長を原子の大きさ(電子軌道周長)と比べるとよい。原子核の場合は陽子か中性子のドブロイ波長を原子核の大きさと比べるとよい。どちらも同程度の大きさであることがわかるので,量子力学を使わなければならない。このことについては課題2を参照。

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