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第2章 原子核の質量

原子核の質量

 まず、12C の中性原子(原子核ばかりではなく、電子も含んだ中性の原子)の質量を 12 amu ( Atomic Mass Unit ) と定義する。そうすると

1 amu = 1.6605655 x 10-27 kg
となる。これは化学と共通の約束である。これを使って陽子、中性子、水素原子、重水素原子、ヘリウム4原子の質量を表すと以下のようになる。
m(p) = 1.0072764 amu
m(n) = 1.0086648 amu
m(1H) = 1.0078250 amu
m(2H) = 2.01410 amu
m(4He) = 4.00260 amu

 原子核の質量はそれを構成する複数の陽子、中性子の質量の合計に大体等しいが、厳密に考えるとこれより少し小さい。この差は原子核内で働く力による結合エネルギー(質量に換算するには c2 で割る)で説明される。

結合エネルギー

 原子を構成する複数の電子、陽子、中性子の質量の合計と原子質量との差に c2 を掛けてエネルギーにしたもの。原子核にこのエネルギーを与えるとばらばらの核子にすることができる。陽子数 Z、中性子数 N の原子核の結合エネルギー B は以下のように与えられる。

B = [ Z・m(1H) + N・m(n) - m(Z,N) ] c2

 この定義から課題3にあるように12C の結合エネルギーを求めることができる。

比結合エネルギー

 結合エネルギーは原子核内の核子の間で働く力の位置エネルギーも反映している。核力は核内の隣の核子までしか届かないので、その効果は核子数(質量数)に比例する。(もっと遠くまで届くなら核子数の2乗に比例する)。結合エネルギーが大体質量数に比例するのでその比例係数は核種にあまり依存しない。

図は「比結合エネルギー」として(結合エネルギーB)/(質量数A)を定義し、Aの関数として表示したものである。これは1個の核子を核から引き抜くのに必要なエネルギーを意味する。同じAでも複数の核種があり多価関数になるので、その最大値を表示している。 A = 60 (Fe, Ni) で最大となり、それより大きくても小さくても比結合エネルギーが小さくなる。このことは A = 60 付近で原子核の結びつきが最も強いことを意味する。この比結合エネルギーの平均は約 8 MeV であることを覚えておこう。また、注意深く見ると質量数が4の整数倍のところにピークがある。これらは 4He が整数個集まってできる核としての性格のあることを反映している。

 比結合エネルギーが質量数60付近で最大となることから、それより軽い核での核融合反応、それより重い核での核分裂が結果として結合の強い核を生成するので、核内のエネルギー(結合させる力の位置エネルギーと核子の運動エネルギーとの合計)が負で小さく(絶対値は大きく)なる分、核の外部の運動エネルギーが増えて発熱反応になる。逆に軽い核で核分裂、重い核で核融合を起こしても吸熱反応になる。

核分裂と原子力エネルギー

 比結合エネルギーの考察から核分裂によって熱エネルギーを取り出すには重い核の分裂を使わなければならない。235U や 239Pu がよく使われる。これらの核の比結合エネルギーは約 7.7 MeV である。これらが分裂して2つの中程度の質量数の核になり、その比結合エネルギーが 8.6 MeV 程度である。そうすると1つの235U 核の分裂から約 200 MeV のエネルギーが取り出せることになる。

この値が核融合によるものよりも大きいことは、原子爆弾と水素爆弾の威力から想像すると意外に感じられることが多い。「臨界量」が大規模な原子爆弾を困難にする原因となる。核分裂は例えば

235U + n → (2つ以上の核)+(複数の中性子)

のように中性子によって引き起こされる(中性子がなくても起こる自発核分裂は後述する)。この入射中性子はエネルギーが低い方がこの反応が起こりやすい。発生した中性子が次の核分裂を引き起こすことが連続的に起これば「連鎖反応」となる。そのためには 235U などの燃料が臨界量以上に密集していなければならない。この臨界量は燃料の濃縮度、幾何学的配置や周辺の物質に依存する。

 原子爆弾の場合、高濃縮の 235U か原子炉で生成された 239Pu を臨界量を越えないように分けておき爆薬により外側から爆縮して臨界量を越えさせ、同時に中性子を浴びせて核爆発させる。 235U による原子爆弾は2つに分けておくだけでよいが、 239Pu による場合は、プルトニウムの同位元素で自発核分裂するものが混じるので、もっと多く分けておかなければなならい。

 原子炉の場合、低濃縮の 235U の大量の燃料棒と中性子を吸収する元素を含む制御棒とを混在させ、制御棒の出し入れによって臨界付近を制御する。核分裂による中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換するために「減速剤」を用いる。減速効果は軽い元素ほどよいので、水を使う場合が多い。さらに熱エネルギーを取り出すための「冷却剤」が必要である。水で減速剤と冷却剤とを兼用している場合が多い。

資源としての原子力利用の問題は、天然ウラニウムの 0.7 % しかない 235U しか使わない現在の原子炉では、あと数10年で資源を使い切ると予想されていることである。ウラニウムの 99.3 % を占める 238U をも利用できる「高速増殖炉」であれば100倍ほどの資源の利用ができることになる。この場合、「高速」中性子によって 238U が核分裂を起こすばかりでなく、次の反応も起こり、 239Pu が生成される。

238U + n → 239U → 239Np → 239Pu

 高速増殖炉では消費される燃料よりも多くの 239Pu を生成するので「増殖炉」と呼ばれる。しかし、この場合、減速剤として金属ナトリウムを使うのでその取り扱いが困難である。世界的に高速増殖炉の開発を中止しているときに、日本だけが開発を継続し、「もんじゅ」でのナトリウム漏れ事故を起こした。普通の原子炉では 235U より少ないながら 239Pu を生成できる。これを核燃料として再利用することは「プルサーマル」と呼ばれる。この場合、大部分の 238U は利用されないので、エネルギー資源としての有効性は小さい。

 環境への影響の観点から見た原子力の利点として、炭酸ガスを出さないことがあげられる。確かにこの点は火力発電と比べて優れている。問題は核分裂生成物が放射性廃棄物になることである。この放射性廃棄物を未来にわたって管理しなければならないという負の遺産を子孫に残すことが問題である。さらに核分裂で発生した中性子が原子炉圧力容器を劣化させたり、周辺の物質を放射化したりすることも難点である。使用済み燃料からプルトニウムを取り出せば、原子爆弾を作れるので、軍事利用につながるという問題もある。

核融合の利用

 核融合によるエネルギー利用としては

2H + 2H → 3H + 1H + 4.03 MeV
2H + 2H → 3He + n + 3.27 MeV
2H + 3H → 4He + n + 17.6 MeV

などの反応を使う。電荷を持った原子核どうしが電気的反発力に打ち勝って接触しなければ核反応が起こらないので、高速で衝突させるために核燃料を1000万度以上の高温度にしなければならない。三重水素は放射性で、天然には存在しないので重水素に原子炉からの中性子を吸収させて作る。三重水素による方が核融合を起こす条件が緩いので、資源問題は別として、技術的に当面の目標とされる。

 水素爆弾の場合、この高温を得る手段として原子爆弾を使う。水素爆弾の構造は軍事機密で公表されていない。

核融合原子炉は実現していないが、次のような方向が模索されている。

 資源としての重水素は地球上に大量に(約100億年分)あるので、核融合原子炉が実用化されれば人類はエネルギー問題から解放されることになる。そのため核融合による原子力エネルギーは「夢のエネルギー」と呼ばれる。

 核融合の利用はまだ見通しが立っていないが、実用化した時点で予想される問題としては、放射能性の三重水素を大量に使うこと、取り出せるエネルギー当たりの中性子数が核分裂原子炉と比べて数10倍も多いこと、などが考えられる。前者はほんの一部が漏れただけでも非常に深刻な汚染になることを意味する。後者は中性子吸収による周辺物質の放射化で、原子炉の維持は人による作業ではできないほどになることを意味する。

質量公式

 1935年にベーテとワイツゼッカーによって作られた半実験公式で原子の質量を与える。陽子数 Z 中性子数 N の核の原子質量 m(Z,N) は次のように与えられる。

m(Z,N) = Z・m(1H)  陽子、電子の質量
  + N・m(n)  中性子の質量
- av・A  体積項
+ as・A2/3  面積項
+ aC・Z2/A1/3  陽子間の斥力
+ asym・(N-Z)2/A  対称項
+ δ/A1/2   偶奇項

ここで、測定値に合うようにパラメータを決めると

av = 15.56 MeV/c2
as = 17.23 MeV/c2
aC = 0.697 MeV/c2
asym = 23.3 MeV/c2
δ = -12 MeV    Z = 偶数, N = 偶数
0 MeV     A = 奇数
  +12 MeV    Z = 奇数, N = 奇数

を得る。第3項以下の符号を変えて c2 を掛けると結合エネルギーを与える実験式になる。第1,2項は原子の構成粒子に質量を与える。第3項は核力が短距離力であるので核子数に比例する部分を、第4項は第3項で表面の核子について評価しすぎた部分の補正を表す。第5項は陽子間の斥力の位置エネルギーによる。第6項は陽子、中性子が独立に低いエネルギー状態を占める傾向があることを表す。第7項は陽子、中性子それぞれが2つずつ対を作る傾向があることを表す。

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