原子核物理学 第1章 第2章 第4章 第5章 第6章 第7章 第8章

第3章 原子核の安定性

原子核の崩壊

 ある不安定な核種の原子核が N 個あるとする。それが崩壊するときに放射線を出す。個別の原子核はそれぞれの時刻に崩壊するが,多数の原子核の集団全体では崩壊率すなわち N の減少率 ( R = -dN/dt )は個数 N に比例する。その比例係数をλとすると

-dN/dt = λ・N
が成り立つ。これは N(t) を未知関数とする微分方程式である。その解は t = 0 での N をN0 とすると,
N(t) = N0e-λt
が得られる。R(t) についても同様に
R(t) = R0e-λt
を得る。

 半減期は集団の個数が半分になる時間である。個別の原子核は何時崩壊するかはわからないが,集団の振る舞いが正確に議論できる理由は,崩壊が量子力学の統計的性質を反映しているからである。半減期を T で表すと崩壊定数λとの間に

T = ln2 / λ
の関係がある。また
N(t) = N0 2-t/T
になる。

 平均寿命τは個別の原子核の寿命の平均で定義される。t 〜 t + dt の間に崩壊する数(すなわち t 〜 t + dt の間の寿命を持つ原子核の数)は (-dN/dt)dt であるから,平均寿命は (-dN/dt)dt の重みをつけた t の平均である。結果は

τ = 1 / λ
となる。これを使うと
N(t) = N0 e-t/τ
となる。

α崩壊

 不安定な原子核から 4He の原子核(α線とも呼ぶ)が飛び出してくる崩壊。α粒子の結合エネルギー

Bα = m(A-4,Z-2) + m(4He) - m(A,Z)

が負であればエネルギー的には崩壊が可能である。この条件は A > 150 の質量数の核で大体満たされるが,実際にはもっと重い原子核でなければ起こらない。その理由はα粒子のエネルギー Eα はクーロンバリアより低いために,トンネル効果でバリアを抜けなければ核の外へ出られないからである。このトンネル効果は量子力学的な確率的現象であり,α粒子のエネルギーとバリアの高さとの関係が少し変わるだけで確率(結果として半減期)が大幅に変化する。


β崩壊

 単独の中性子は約 10 分の半減期で

n → p+ + e- + `ν
のβ-崩壊を起こす。左辺の中性子の質量が右辺の3つの粒子の質量の合計よりも大きいのでこの崩壊は自発的に起こる。一方

p+ → n + e+ + ν

のβ+崩壊は左辺の陽子の質量は右辺の3つの粒子の質量の合計よりも小さいので外界からエネルギーを与えない限り起こらない。原子核の中では陽子と中性子の数が変化して別の核種になるので,結合エネルギーの変化のために,このエネルギーが供給される場合がある。さらに原子核の外の軌道電子が参加して

p+ + e- → n + ν
のような軌道電子捕獲も起こりうる。この場合はβ+崩壊よりも外界から与えられるべきエネルギーが少ないので,エネルギーの条件が緩い。軌道電子捕獲はβ+崩壊の右辺の電子を(符号を変えて)左辺に移項したことになるので素過程としてはβ+崩壊と同じである。

 β崩壊の結果,陽子,中性子の間の数が1つだけ変化し,その合計の質量数は変化しない。

核種半減期原子質量質量差
25Ne24.99769 amu
↓β-0.6 s+0.00774 amu
25Na24.99769 amu
↓β-60 s+0.00411 amu
25Mg24.98995 amu
↑β+7.2 s-0.00459 amu
25Al24.98584 amu
↑β+0.22 s-0.01368 amu
25Si24.99043 amu

 この表は質量数 25 の核種の間のβ崩壊を示す。質量の差によって崩壊の方向が決まること,質量差が大きいほど半減期が短いことが読み取れる。

質量数が奇数の核種(右図では A = 37 の例)の間では質量の最小の核種へ向かってβ崩壊するので,同じ質量数の核種でβ崩壊に対して安定な核種は1つだけになる(右図では 37Cl )。一方,質量数が偶数の核種(右図では A = 36 の例)では,質量公式での偶奇項によって陽子・中性子ともに偶数の核種の方がともに奇数の核種より軽いので,質量の極小値が複数個あり得る。このため,偶数の質量数の場合には安定な核種は複数個ある場合が多い(右図では 36S と 36Ar )。また 36Cl はβ+崩壊とβ-崩壊の両方が可能であることになる。


自発核分裂

 原子力に使う235U は中性子を吸収してはじめて核分裂を起こす。これは中性子の結合エネルギー(約 8 MeV )を供給されることによってエネルギーの高い状態になり,反応を起こすことが可能になるからである。

人工的な超ウラン元素ではこのエネルギーの供給をしなくてもα崩壊と同じように「自発的に」核分裂を起こすものがある。例えば

244Pu (半減期 0.82 億年)は 0.12 % が核分裂
250Cm(半減期 6900 年)は 100 % が核分裂を起こす。

重イオン崩壊

 223Ra の大部分はα崩壊をするが,ほんの一部(20億分の1)が 14C を放出する。このような例はもっと少ない割合で 24Ne, 28Mg, 32Si などの放出も見つかっている。

放射系列

238U (半減期 45 億年)はα崩壊を8回,β崩壊を6回して最終的に安定な 206Pb になる。途中の放射性核種の質量数 A は n を整数として A = 4n + 2 と表される核種に限定される。一方 235U (半減期 7 億年)が崩壊すると A = 4n + 3 の核種だけが崩壊の途中に現れる。α崩壊,β崩壊ではこれらの系列の間をまたがる崩壊はないことがわかる。他にも 232Th (半減期 140 億年)から始まる A = 4n の系列も見つかっている。残る A = 4n + 1 のものは天然には存在しない。この系列に属する核種で最も半減期が長いのは 237Np (半減期 200 万年)であるので,数十億年前の元素合成以後すでに消滅して地球に残っていないと理解できる。

核図表

 この図は「核図表」と呼び,陽子数を縦軸に,中性子数を横軸にとり,対応する核種の性質を2次元的に図示したものである。ここでは核種の安定性を表示している。一番大きな正方形は安定な核種,小さな点は半減期が1秒以下のものを表示している。

 この図で対角線に近い部分に安定な核種が集中していることが読みとれる。このことは陽子数,中性子数との間で,ある関係を満たすと安定(すなわち原子核の中で核子どうしの結びつきが強い)であることを意味している。軽い核では安定核が対角線に沿っているが,重い核では対角線よりも中性子数が多い方に偏る。この理由は電気的反発力は陽子数の2乗に比例して増えるので,重い核での引力は中性子によらなければならないからである。

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ベータ安定線

 核図表のベータ安定核を結ぶ1つの曲線は質量公式を使って次のように求めることができる。

N / Z = 0.97 + 0.015 A2/3

証明は課題7とする。

放射性同位元素の例

天然放射性同位元素の例(安斉育郎著「からだのなかの放射能」から)

人工放射性同位元素の例

年代測定への応用

 14C の例がよく知られている。これは半減期が 5730 年である。炭素の同位元素の中で 14C が占める割合は,崩壊と宇宙線による生成とが平衡しているので炭素を生体に取り込んだり排泄したりしていると外界と同じであるが,生体が死んで炭素の循環が停止すると,14C は供給されず崩壊により減少していく。この 14C の割合を測定することにより,炭素の循環が停止したときを推定することができる。

 14C を用いる方法は数千年程度の範囲で有効である。もっと遠い過去の年代,例えば地球の年齢程度の過去の年代を推定するには半減期の長い核種を利用する。 238U(半減期 45 億年),235U(半減期 7 億年),232Th(半減期 140 億年)などが利用される。この場合,資料の中の放射性同位元素と崩壊生成物との存在比から年代を推定するので,始めにこれらの放射性同位元素だけで崩壊生成物がなかったという仮定をする。このことは物質の循環が停止した時を推定することになる。

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