原子核物理学 第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 第7章

第8章 元素の進化

元素分布

 この図は太陽系での物質の存在分布を質量数で分類して表したものである。この図から以下のことが読みとれる。

  1. 1H が大部分を占める。
  2. 4He は 1H の 1/4 ある。
  3. Li(Z=3), Be(Z=4), B(Z=5) は少ない。
  4. C, O, Ne,....(A = 4n) は比較的多いが重くなるにつれて少なくなる。
  5. Fe が多い。
  6. さらに重いものは質量とともに減っていくが、所々にピークがある(A=130,138,195,208)。
  7. (この図では読み取れないが)もっと重い長寿命の不安定核も存在する。

 ビッグバンで始まる宇宙の歴史の中で、核反応による元素合成、すなわち元素進化によって現在の元素分布を説明することが天体核物理学の目標である。

受講者へ

 この図で原子番号を反映する元素記号が記入されているのに横軸は質量数としている理由を考察すること。


ビッグバン直後の元素合成

宇宙初期での元素合成に伴う組成変化(岩波講座 「宇宙物理学」(林忠四郎、早川幸男編集)より引用)

 この図はビッグバン直後の元素の変化を核反応の情報を基に計算したものである。図の右端で核反応は終了しているので、その後は不安定な核種が崩壊により減少していくだけである。

この結果は元素分布で述べた1.〜3.を説明できている。特に 4He が 1H の 1/4 存在することを説明できることはビッグバンの証拠の1つとされている。この説明を時間順に見ていこう。

1013 K > T > 1012 K の頃

p + π- ←→ n + γ
n + π+ ←→ p + γ
が平衡状態にあり、陽子数 (Np)、中性子数 (Nn) は 1:1 である。少し冷えてπが消えても(T > 1010 K の間は)
n + e+ ←→ p + νe(bar)
n + νe ←→ p + e-
n ←→ p + e- + νe(bar)
の平衡が続き、Np : Nn = 1 : 1 のままである。

109 K < T < 1010 K の頃

 平衡を続けていられる温度ではなくなり

n → p + e- + νe(bar)

の一方向だけの反応になる。このため陽子数と比べて中性子数が減少していく。中性子は核反応によって原子核内に取り込まれなければ半減期約10分で崩壊していく。この間起こる核反応で重要なものは

n + p ←→ 2H + γ
2H + 2H → 3H + p, 3He + n

である。このようにして原子核内に入った中性子は引き続く核反応によって4He にたどり着く。このような核反応が起こるのは原子核の間のクーロン斥力にうち勝つ粒子速度が与えられる 109 K 以上の温度のうちだけである。

T < 109 K に温度が下がった後

 T = 109 K で上記反応と中性子の崩壊とが釣り合う。その頃の中性子と陽子の比率は

Nn : Np = 1 : 7
になっていて、もっと冷えると 4He は生成されない。存在比はこの時点で凍結される。
Y = (4He の存在重量) / ( p の存在重量)
= [ 2×Nn ] / [ Np + Nn ]
= 2 / ( 1 + Np / Nn ) = 0.25
その後数分間、核反応がわずかに進行する。Li, Be, B にとっては実質的にこれしか合成のチャンスがない。

HR図と星の進化


 この図はHR図(Hertzsprung-Russell 図)と呼ばれる。「現代総合科学教育体系 SOPHIA21」にある図をコピーした。縦軸に光度,横軸に温度(左側が高温)をとり,2次元的にプロットしたものである。

 エネルギー放出率(星の場合は光度)は星の面積の1乗(半径の2乗)と温度の4乗に比例することがわかっているので星の大きさがわかる。この図の右上の星の半径が大きく左下の星の半径が小さいことになる。左上から右下に分布している大集団に太陽も属していて大きさは太陽と同程度である。これを「主系列」と呼ぶ。左下に分布しているものは半径が小さい「白色矮星」で、大きさは地球程度である。右上のものは巨星,超巨星で、半径は太陽の100倍から1000倍程度である。半径も表示したHR図はここをクリックして見ることができる。また各種の星の大きさを比較した図はここをクリックして見ることができる。

 このHR図は星から放出されるエネルギーがどのように供給されているかという情報と星の進化にかかわる情報を与えている。星が一生の間でHR図の分類の間を通って進化していくとしたら数の多い主系列星である時間が長いことになる。このようにして一生の 90 % の時間は主系列星として進化することになるので,星の寿命は実質的に主系列星で議論できる。

 上の図は目立つ星を優先的に載せたので、実際の数の分布を反映していない。実際の数の分布は次のHR図を参照。


太陽系に近い星のHR図


 この図は astro-ph/9812243 からコピーした。"Hipparcos" は三角測量で星までの距離を精密に測定する人工衛星の名前である。主系列星が多いことが読み取れる。

プレアデス星団とM15星団のHR図


 この図も astrp-ph/9812243 からコピーした。左右の図を比べると分布の違いが明らかである。左の図では主系列星の左上の(短寿命の)星がまだ生きているのに対して、右の図では左上の星は別の姿に変わっている。このことから星団の年齢についての情報も得られる(プレアデス星団は若く、M15は高齢である)。

 どちらの星団でも地球から個別の星までの距離はそれぞれの球団で一定であるとすることができるので、縦軸は絶対光度に直さずに見かけの光度のままでも星団に対するHR図を作ることができる。このような図を上下方向にずらして絶対光度で表わしたHR図と一致するように重ねると、そのずらした量から星団までの距離を求めることができる。このような星団のHR図から距離を求める方法は三角測量法とセファイド法とのつなぎとして重要である。

図にある略号の説明(進化の時間順)
   MS Main Sequence(主系列星)
   TOP Turn-Off Point の略。主系列星から離脱し始める位置
   RGB Red Giant Branch(赤色巨星分岐)
   HR Horizontal Branch(水平分岐)
   AGB Asymptotic Giant Branch(漸近巨星分岐)。図では数が少ないので分かり難い。

 主系列星では中心で水素燃焼反応、赤色巨星では中心に燃焼していないヘリウム核ができてその周りで水素燃焼殻が形成される。水平分岐段階では中心でヘリウム燃焼が起こっている。漸近巨星分岐では中心に燃焼しない炭素・酸素の核ができ、その周りにヘリウム燃焼殻、さらにその外に水素燃焼殻が形成される。

球状星団のHR図の比較


 この図は http://zebu.uoregon.edu/~js/ast122/lectures/lec12.html からコピーした。赤い文字で表示されている値はその位置にある星の寿命を年で表わしている。重い星ほど中心温度が高くなり明るく輝くが、寿命は短くなる。重い星ほど主系列星のときに左上に分布する。

星の進化と核反応

 ビッグバン直後の核反応は最初の数分で温度の低下により終了した。その時の元素は大部分が水素であり、重量で4分の1をヘリウムが占めていた。その後、重力により物質が集まり、銀河や星などの天体を形成していく。重力収縮での位置エネルギーの解放により天体の温度が上昇し、ついに核反応を起こすのに充分な条件が星の中心部で作られる。

 星の進化の原動力(エネルギーの源)はつぎの2つである。

 星の中心温度は進化と共に高くなっていく(ただし死後は除く)。核反応は重い元素(原子番号の大きい元素)ほど,点火するには高い温度が必要である(上図参照)。従って星の中心部で核反応が始まり、核反応の「灰」は中心部にたまる。核反応が停止すれば重力で収縮する。その結果星の中心温度が上昇する。収縮と温度上昇を停止するのは次の段階の核反応(より重い元素の核反応)に点火するか,「電子縮退」(他に「中性子縮退」もあるがこれは死後なので除外)が起こるときである。

 どこまで核反応が進行するかは星の中心の温度がどこまで上がるか,ということで決まるが,それはさらに星の質量で決まる。太陽質量の0.08倍以下の天体は核反応を起こすには質量が不足であり、木星のように輝かない星となる。

 上の図は各元素が核反応によってエネルギーを放出する放出率の温度依存性を示す。図で「pp」「CNO」は水素燃焼(後述)「He」はヘリウム燃焼を示す。酸素燃焼とネオン燃焼との順序が原子番号順と逆転しているが原子核の結合の強さのためである。

 鉄(原子番号26)より先では核融合反応が吸熱反応になる。

 電子縮退は通常の物体の100万倍程度の高密度まで圧縮された状態である。縮退状態では温度を上げても圧力は上がらない。

水素燃焼反応

 まず水素を燃料とした水素燃焼反応が起こる。反応は 0.08 M < M < 2 M, T ≦ 2×107 K の場合、次の p-p チェインと呼ばれる反応を経由する。

1H + 1H → 2H + e+ + νe + 1.44 MeV
2H + 1H → 3He + 5.49 MeV
3He + 3He → 4He + 21H + 12.86 MeV
∴ 41H → 4He + 2e+ + 2νe + 24.72 MeV

1つ目の反応が弱い相互作用によるので、反応速度は非常に遅く、これによって全体の反応速度が支配される。この反応により「灰」としての 4He が星の中心にたまり、燃料としての 1H が欠乏してきて、上記の反応が停止する。太陽の質量の星では約 100 億年この反応が持続すると考えられる。また M > 2 M, T ≧ 2×107 K の場合、次の CNO チェインと呼ばれる反応を経由する。

12C + 1H → 13N + 1.94 MeV
13N → 13C + e+ + νe + 2.22 MeV
13C + 1H → 14N + 7.55 MeV
14N + 1H → 15O + 7.30 MeV
15O → 15N + e+ + νe + 2.75 MeV
15N + 1H → 12C + 4He + 4.79 MeV
∴ 41H → 4He + 2e+ + 2νe + 24.72 MeV

結果的に p-p チェインと同じ反応になる。このうち4番目の反応が一番遅く、全体の反応速度を支配する。この反応は荷電粒子同士による反応なので温度が上がれば速くなる。またここで C, N, O は増減せず、化学反応での触媒のような役割を果たす。

主系列星(水素燃焼)の寿命

質量/太陽質量寿命(億年)
0.5
1700
1
100
2
13
5
1
10
0.26
20
0.1
50
0.06

 主系列星に属する星は太陽と同じく水素燃焼反応によって輝いている。星の質量が大きいと中心部での温度,圧力も大きくなり核反応率,光度が急激に大きくなる。上の図は質量の分かっている主系列星の絶対等級の質量依存を示す。質量は連星の場合に分かるが、この図で●印は分光連星、○は実視連星、×は太陽のデータを示す。太陽は4.7等星である。

 質量のわかっている主系列の星での光度で質量を割ると寿命の情報が得られる。その結果,表に示すように質量の大きい星ほど,燃料が多いにも拘らず,寿命が短いことがわかる。太陽の半分の質量の星はまだ1個も死んでいないのに対し,太陽の50倍の質量の星は人類の発生よりも後で生まれたことになる。

赤色巨星へ

 右の図では初めの質量(太陽質量の0.8倍から15倍まで7段階に分けて)ごとに水素コア燃焼段階(主系列星)を青い曲線で表している。比較的軽い星(図では太陽の0.8倍の質量の場合)では中心部の水素燃焼コアの中で温度差があるために、水素燃焼反応により、星の中心部の水素が徐々になくなりヘリウムが中心の蓄積されコアを形成する。水素燃焼反応はヘリウムコアの周りの殻状の部分で継続する。
 比較的重い星(図では太陽質量の1.5倍以上の場合)では水素燃焼コアの対流があるために、水素が一挙に無くなり(ヘリウムコアとなり)、水素燃焼が停止する(図では緑色で表示)。その後のヘリウムコアの収縮の結果、温度が上昇してコアの周りの殻状の部分で水素燃焼が再開する(ヘリウムはまだ燃えない)。水素殻燃焼段階を図では赤色で表示している。黒い曲線は次に説明するヘリウム燃焼段階を示す。
 水素殻燃焼の結果、ヘリウムコアが成長すると、重力のためにコアの部分が収縮し温度が上昇する。水素殻燃焼が盛んになり水素の外層は膨張して赤色巨星となる。巨星表面の脱出速度が小さいので、外層の水素の一部は星の外へ放出され、星の質量が減少する。


ヘリウム燃焼反応

 ヘリウムコアの質量が太陽質量の0.46倍になると(右図で赤丸で示したところ)温度が1億度 (108 K) まで上がり、次の反応が起こる。

4He + 4He ←→ 8Be - 0.092 MeV
8Be + 4He → 12C + 7.366 MeV
12C + 4He → 16O + 7.161 MeV

4He は陽子数、中性子数ともに魔法数で結合が非常に強い原子核である。それが整数個集まった原子核もまた結合が強い( 8Be は例外)。質量数が増加していくと電気的反発力が強くなり反応が起こりにくくなる。この過程が元素分布の4番目の説明になる。
 右図で黒色の部分は前述の水素燃焼段階を示し、赤色で示した曲線がヘリウム燃焼段階を表す。ヘリウム燃焼コアで対流ができるために質量集中度が低下し中心密度が低下する。このためにそのすぐ外の水素燃焼殻の温度が下がり、外層部が収縮する。HR図で水平に分布するのでこの段階を「水平分岐」(Horizontal Branch)と呼ぶ。星の大きさは先の赤色巨星よりかなり小さくなる。
 中心に炭素・酸素の灰が蓄積されるとヘリウム燃焼が殻状部分に移動する。水素殻燃焼、ヘリウム殻燃焼の温度が高いために、この段階の星の大きさは先の赤色巨星よりも大きく赤色超巨星となる。この段階を「漸近巨星分岐」(Asymptotic Giant Branch)と呼ぶ。このときに物質の放出が激しく、質量の大半を失う。放出された物質が「惑星状星雲」として観測されている。



 水平分岐の段階では中心部でヘリウム、その外の殻で水素が燃焼する。漸近巨星分岐では中心に炭素・酸素のコアが形成され、水素殻燃焼、ヘリウム殻燃焼となる。
  M < 4 Mの星はここまでしか核反応を起こさず、反応停止後は炭素・酸素をコアとする白色矮星となる。


 この写真はハブル望遠鏡によって得られた「惑星状星雲」を示す。中心に白色矮星が見えているものもある。

C-Ne 燃焼反応、O-Mg 燃焼反応、Si 燃焼反応

 ヘリウム燃焼終了後の重力収縮によって「灰」であった 12C, 16O にも火がつく温度まで上昇できるほどの質量をもった星( M > 4 M)ではこれらの核や 4He による核融合反応が進行する。温度が高くて電気的反発力にうち勝つほどの運動エネルギーが与えられれば、強い相互作用だけの反応もあるので、核反応は爆発的に進行する。M < 8 M の星はこれによって星全体が吹き飛んでしまうと考えられる。さらに重くて M > 8 M の星は重力が強くて星が吹き飛ばず、さらに重い原子核へと核融合反応を続ける。しかし、核融合反応の反応エネルギーが正であるのは質量数が 60 付近までであるのでここで核融合反応は停止してしまう。この反応では 56Fe を生成する。これで元素分布の5番目が説明される。大質量星は右の図のようにFeまでたどり着く。
白色矮星とチャンドラセカール限界

 どこまで核反応が進むかは星の質量による。核反応の灰が中心にたまってそれ以上の核反応を起こさせるほどの質量がなければ、重力を核反応の熱によって支えることができずに重力収縮を続ける。中心部は非常に高密度になり、電子縮退圧によって重力を支えるところで収縮が止まり、白色矮星となる。白色矮星は重力収縮によって加熱された余熱で輝いており、やがてはその輝きを失う。
 白色矮星の大きさは地球の大きさ程度でありながら、太陽程度の質量を持つ高密度物質の天体である。しかし白色矮星の質量には「チャンドラセカール限界」があり、それ以上の質量の天体では電子縮退では重力を支えられずに、超新星爆発に至る。具体的には太陽質量の約1.4倍である。

炭素爆燃型超新星爆発


 タイプ1bの超新星は炭素や酸素の芯が電子縮退した白色矮星に連星の相手の星からの物質が降り積もり、白色矮星としての質量限界を越えてしまって起こる。収縮によって温度が上がっても圧力が上がらないので非常に高温度になり、ニッケルを作るまでの核反応が進行し、一挙に爆発してしまう。
 図は理論的に計算された核反応生成物分布を示す。この図で横軸は中心からの距離を内側に入る質量で表したものである。縦軸はその位置での核反応生成物の存在比を示す。大量に作られたニッケルは鉄にベータ崩壊する。大質量星でも鉄まで作られたが超新星爆発によっても作られる。


重力崩壊型超新星爆発


 タイプ2は大質量星の終末に起こる爆発でr過程と関連するものである。 M > 8 M の星は Si 燃焼反応により中心に Fe の電子縮退した芯を作る。これは鉄をコアとした「白色矮星」の周りに鉄よりも軽い元素の層が重なったものと考えることができる。その層の核反応が進行して芯の質量がチャンドラセカール限界を超えると、電子縮退圧では重力を支えられずに重力収縮を起こす。このときの温度上昇は核反応によるものよりも激しい。温度が100億度になると

56Fe → 134He + 4n - 124.4 MeV

のような熱分解(吸熱反応)も起こる。吸熱反応であるために爆縮となり、さらに急激な収縮が進行する。中心部が原子核の密度まで圧縮されたとき、その核に当たって跳ね返る。その衝撃波で外に飛び散る。この爆発の規模はTNT火薬 1028 メガトン相当である。中心には中性子星かブラックホールが残る。



 上の図は合成された元素の分布を示す。



これは1987年に観測された超新星SN1987Aで、右下に明るく輝いている。この超新星からのニュートリノを観測したことで小柴先生がノーベル賞を受賞した。



単独星の質量による進化の分類(高原まり子著「壮絶なる星の死」から)

質量/太陽質量運命
〜0.08水素燃焼を起こさずに惑星状のままである。
0.08〜0.45ヘリウムの白色矮星になる。しかし宇宙年齢たってもまだ主系列星のままである。
0.45〜8ほとんどの星は水素の多い外層を失ってC+Oの白色矮星になる。7 M〜8 Mの星は炭素爆燃型の超新星となるかもしれない。
8〜10電子の縮退したO+Ne+Mgのコアが形成される。中心で電子捕獲反応が酸素燃焼にうち勝つと、鉄のコアの重力崩壊型超新星となる。
10〜(30〜50)電子の縮退した鉄のコアが形成され、鉄のコアの重力崩壊型超新星となる。超新星爆発によって星の外層は吹き飛び、超新星残骸となる。吹き飛ばずに残ったコアの中心部分が中性子星になる。
(30〜50)〜電子の縮退した鉄のコアが形成され、鉄のコアの重力崩壊型超新星となる。超新星爆発が不発に終わり、星全体がつぶれてブラックホールになる。
この表でMは太陽質量を表す。なお、質量の範囲は著者によって食い違いがある。連星の場合は相手の星との質量の交換があり得るので別の可能性がある。


HR図上での進化(動画)

 次の2つの動画は http://zebu.uoregon.edu/~js/ast122/lectures/lec12.html からコピーした。クリックすると動き出す。星の質量に応じて速く進化する様子を読み取って欲しい。重い星はこの動画ではすぐに超新星爆発をしてしまう。

速い動画

 左の図が初期状態(主系列星)を示す。右の図は進化を示す動画。左上ほど重い星になり、進化が速い。

詳しい動画

 太陽質量の0.7倍、1.0倍、2.6倍の星については大きさの変化も右側に表示していることを確認してから図をクリックしよう。ZAMS(Zero-Age Main Sequence の略で主系列星誕生時を時間の原点にしている)と表示されている位置に動画では以後の時間が10億年の単位で表示される。

初期条件
動画


中性子吸収反応


56Fe よりも重い核での核融合反応は吸熱反応になる。陽子や中性子による反応はエネルギー的に可能であるが、高温度でなければ陽子による反応も難しい。残るのは中性子による反応である。中性子吸収とベータ崩壊との繰り返しでより重たい核を次々に生成していく過程で、中性子の量により以下のs過程とr過程とがある。図で実線で繋がれた「ベータ安定線」上の核種はs過程で、繋がれていない核種はr過程でできたと考えられる。さらに「ベータ安定線」のそばで陽子過剰の安定核は陽子吸収過程(p過程)でできたと考えられる。

s過程

中性子の供給があると中性子を吸収して元の原子核より中性子数が1つ多い原子核になる。これがベータ崩壊に対して不安定であればベータ崩壊をする。そしてさらに次の中性子の供給を待つ。このようにして徐々に重い元素を合成していく過程を「s過程」と呼ぶ。この中性子は漸近巨星分岐(Asymptotic Giant Branch)段階にある中質量星のヘリウム燃焼殻での

13C(α, n)16O

反応による中性子が有力視されている。典型的に1000年に1回程度の割合で中性子を吸収するので次の吸収よりも先にベータ崩壊が起こる。このため重い元素の合成は「ベータ安定線」に沿って進行する(図では核種を線でつないで表示している)。このs過程では 209Bi よりも重い元素は作れない。なぜなら

209Bi + n → 210Bi(T = 8 d) → 210Po(T = 138 d) → 206Pb + 4He

のようにα崩壊によってもっと重い原子核への進行が止められるからである。

 中性子吸収反応を起こしにくい核種で渋滞を起こすのでそのような核種ほどs過程で作られる割合が大きい。これは中性子数が魔法数の所で起こる。なぜなら中性子を吸収した後の核種の中性子結合エネルギーが小さいからである。N=82,126に対応するピークがA=138,208で見られる。

r過程

s過程では現在地球にある 235U などの原子核の生成を説明できない。s過程ではβ崩壊をして次の中性子吸収を待ったが、超新星爆発により中性子の供給が桁違いに多い環境では、このβ崩壊を待たずに次々と中性子吸収が起こり、もっと先まで重い原子核を生成できる。図の斜線を引いた経路を通ると考えられる。中性子の結合エネルギーが負になる所で中性子吸収と中性子崩壊とが平衡になり、β崩壊を待つ。β崩壊が起こればすぐに次の中性子吸収崩壊の平衡が起こるところまで重い原子核の生成が進行する。このは中性子数が魔法数である所で起こる。ただし陽子数が安定核よりも少ない所であるのでN=82,126に対応する質量数はA=130,195となる。中性子の急激な供給が止むとβ崩壊により安定核に移動していく。ベータ安定線から中性子過剰側に孤立している安定核はr過程によりできたと考えることができる。

この図はr過程の専門家である和南城伸也氏(上智大学)の好意により提供されたシミュレーションである。1秒以下の時間で重い元素まで作られていく様子が表示されている。

重元素の合成

 上の図は核反応率を用いた計算値である。s過程の狭いピークとr過程の広いピークが見られる。ピークが広くなるのはこれらの中性数に対応する核種の数がs過程の場合より多いからである。「p過程」はベータ安定線よりも陽子が多くて孤立している安定核で、これは中性子でなく陽子を吸収したと考えられる。これらによって6番目が説明される。


中性子星までも含む詳細なHR図


 この図は Reviews of Modern Physics 69(1997)995-1084 の論文にある図から作った。右下がりの破線で天体の半径も表示されている。この図では軽い星ばかりでなく重い星についても(太陽質量の1倍、5倍、25倍の星について)進化を主系列(図の右側)からスタートして表示している。主系列星の領域で太い実線の部分は中心核で水素燃焼をしている段階を示す。破線の曲線で太陽質量の0.6倍、0.85倍と表示しているものは、主系列星として太陽質量の1倍、5倍からスタートしたものが漸近巨星分岐までに質量を失った星の進化を追跡したものである。これらは惑星状星雲(この経路途中で太陽のようなマークで表示)を経由して白色矮星(図では White Dwarfs と表示)に進化していく。4段階ある黒丸は観測された星を示し、大きさによって白色矮星(最小のもの)、水素燃焼核の星(2番目に小さな黒丸)、ヘリウム燃焼核の星(2番目に大きい黒丸)、水素燃焼殻の星(赤色巨星)、水素燃焼殻とヘリウム燃焼殻段階の星(超巨星)を最大の黒丸で表示している。
 重い星は超新星爆発(図では SNeII と表示)を経由して中性子星やブラックホール(図では Neutron Stars, Black Holes と表示)になる。




太陽と地球の運命

 主系列星である太陽の寿命と赤色巨星等に進化して膨張したときに地球を飲み込むかどうかを考えてみる。

太陽の寿命

 地球では太陽からの熱の放射で太陽光に垂直な面では 1 cm2, 1 分あたり 1.96 カロリーのエネルギーを受け取っている。この値は「太陽定数」とも呼ばれる。これは 1.37 kW/m2 とも表せる。効率が 100 % の太陽電池があれば 1 m2 で 1.37 kW の発電が出来るということになる。太陽からは全方向に同じ割合でエネルギーを放射しているので太陽からのエネルギー放射率は地球から太陽までの距離を半径とする球面の面積に太陽定数を掛けたもので 3.9 × 1026 W となる。この割合でエネルギーをどれだけの間放出できるのかを考えてみよう。
 太陽の中心部の高温・高密度の所では

4 1H → 4He + 2 νe + 2 e+ + 24.72 MeV

のような水素燃焼反応が起こっている。これは 1 kg の水素から 5.9 × 1014 J のエネルギーが取り出せることを意味する。太陽の質量は 2.0 × 1030 kg であるから,太陽全体で 1.2 × 1045 J 出せる。
 太陽が放出できるエネルギーと放出しているエネルギー放出率とがわかったので,その割り算で寿命が計算できる。

(太陽寿命)= ( 1.2 × 1045 J ) / ( 3.9 × 1026 W ) = 3.1 × 1018 s = 980 億年

太陽全体ではなく中心部の10分の1が燃えるとして太陽寿命は約100億年となる。

太陽の進化と太陽系惑星の運命

 次の図は The Once and Future Sunというページにある図をまとめた。
 図の左側はHR図上での太陽の進化を、右側は太陽の大きさと惑星軌道の予想を示す。1 Gy は10億年になる。時間は太陽誕生時から数える。 Red Giant Branch(赤色巨星分岐), Asymptotic Giant Branch(漸近巨星分岐)の時に物質の放出があるので太陽の質量が減少する。そのため惑星軌道半径が大きくなる。この計算では地球はかろうじて太陽に飲み込まれないということになる。しかし物質の放出率がこの計算で仮定したものよりも小さければ、地球は太陽に飲み込まれる。赤色巨星分岐の後は惑星状星雲(星から放出された星間雲が星の光で照らされて輝く星雲)を形成し中心部に白色矮星が残る。


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